朽ちていった命―被曝治療83日間の記録 (新潮文庫) /NHK「東海村臨界

朽ちていった命:被曝治療83日間の記録 (新潮文庫)

朽ちていった命:被曝治療83日間の記録 (新潮文庫)

福島であんな事故があって、原発というのはひとたび事故を起こすと、とんでもないことになることを思い知らされた。
神奈川県に住んでいても、買い物に行くたびに色々気にしている自分がいて、「何でこんなことになってしまったんだろう・・・・」と強く思う。

さて、この本を読んで一番感じたのは、人間がやることに絶対とか完璧というのはあり得ないということ。
すでに忘れかけていたこの事故、当時のニュースで、起こった原因についてどこまで詳しく報道されていたのか記憶が定かではなかったけど、この本を読んで戦慄しました。

ひらたーく言うと、
1.臨界を起こさないように形状を工夫した容器で作業しないといけなかったのに、洗浄が面倒で作業に時間がかかるから、現場で勝手にマニュアルを変更してステンレスバケツで作業していた。

2.更にウラン溶液を均一化する作業も、ウランが片寄らないように小分けにして作業するべきマニュアルを、細長い貯蔵タンクで作業するように一度現場で書き換え、更にこの事故が発生した時は細長い貯蔵タンクですらなく、ずんぐりとしたタンクで作業していた。
(現場の偉いさんがその作業マニュアルに許可を出していた。国では認めていないやり方なのに。)

3.だからウランが集まるところができてしまい、臨界が起こって、漏斗を支えていた作業者は放射線を20シーベルト(!!)も浴びてしまった。
(今だから、シーベルトという単位を聞いてどの程度か大体想像できます。確か致死量が7シーベルト程度だったような。)

4.危険なものを扱っている、しかも危険な作業法に変更されていることなどは一切知らされも教育もされていなかった担当者が、命を落としてしまった。

ということらしい。
亡くなるまでの83日間、最初は普通に口もきけて、あまり異常もない体に見えたのに、どんどん手の施しようがない症状が出てきて壮絶な戦いを強いられた後、無惨な姿で亡くなってしまうまでがとても過酷。
私だったら多分、もっと早くに安楽死させて欲しいと思うだろうな。
でもそのころにはもう自分の意志を表示することもできない。

ひとたび事故が起こればこんなに悲惨なことになる原発
人間がやることに絶対はない以上、人類が持ってはいけない技術なのかもと思う。

大破局(フィアスコ) デリバティブという「怪物」にカモられる日本/フランク・パートノイ

大破局(フィアスコ)―デリバティブという「怪物」にカモられる日本

大破局(フィアスコ)―デリバティブという「怪物」にカモられる日本

アメリカって変だよ。・・・これがこの本を読み始めた最初の印象。「マネー・ゲーム」とか「バブル」とかの言葉はニュースや何かで聞いて知ってはいたけど、この言葉を言い得ているとしみじみ実感できます。
投資のトレーダーやセールスマンって、基本的にギャンブルが大好きな性格の方が合うんですね。実体のない、帳簿上のお金のやりとりで色々な金融商品の断片を組み合わせて作り上げるいかがわしい(?)金融派生商品デリバティブ・・・・はじめて聞く単語でした。オプション、フォワード、プレゼントバリュー、スワップレバレッジ、ストリップ、ゼロ・クーポン、ボンド、リスクヘッジ、RAV、MX、AMIT・・・チンプンカンな専門用語の羅列で、読み通すのにえらい時間がかかってしまいました。
が、細かいことはわからないなりに、今まで関わりの無かった全く未知の世界を垣間見て、「ほー。こんな世界もあるんだなぁ。」と、それなりに楽しめるというか、ためになる本です。まあ、金融について無知な人間は危ない投資に手を出してはいけないぞ、銀行から面の皮をひん剥かれるぞという教訓がつまってます。プロでも市場を読み損なって多大な損を出すのだから、素人が手を出すのは危なすぎるということですね。
デリバティブグループの攻撃性を引き出すために、クレー射撃の大会を会社イベントとして開催したり、軍隊出身の社員が結構いたり、とんでもない武器オタクがいたり、みんな肉食を好むタイプ(チーズステーキやハンバーガーの話が結構出てきます。オフィスにカビの生えかけた食べ物が転がっているなんて、想像できない・・・)だったり、やり手の女王がいたり・・・表向き品よく見える投資銀行の人間模様がヒジョ〜に人間くさくて面白いです。
しかし、最後の最後で、最初の印象「アメリカって変だよ。」を撤回したくなりました。「日本っておかしいよ。」という指摘が出てきます。こんな世界に生きていた著者さんでさえ、日本の会計法の甘さにつけ込んだ詐欺まがいの損失隠しや見せかけの利益を出すやり方にウンザリしたそうです。うーーーん。日本ってもっとマトモだと思っていたけど、そんな汚いことを裏でやっている大企業も多いのねぇ・・・。
金の壺の例えが素人には非常にわかりやすいです。
90%が本当の金、10%が金に似て非なるものからできている壺を購入し、すぐに90%の金を90%の価値で売る。が、「それぞれの半分は平均して50%の価値がある。その半分を90%で売れたので、40%の利益が出た」と帳簿に付けるという手口だそうです。
実際には、この金の壺を作る手法として、アメリカの住宅ローンを元本と利息に分けて(ストリップ)、元本部分ちょっぴりに対して利息部分が大半という「本当の金」の部分とゼロ・クーポン(未来の特定の日に1回だけ額面の支払いを受けるため、利息がない分現在の価値は額面より低い債券)の「似て非なる金」の部分から組み立てるそうで、「よくそんなモノを考えつくな〜・・・」と感心してしまいます。
金融の世界というのは奥が深くて計り知れないものですねぇ・・・。
もしも我が息子が「がっつり儲けるために投資銀行に就職してトレーダーになりたい」と言い出したら、「儲かる商売だからがんばりなさい」というよりは「健康的な生活とまっとうな感覚を失う可能性が高いからやめときなさい」の気持ちの方が間違いなく大きい気がします。いやホント。

シモネッタのドラゴン姥桜/田丸公美子

シモネッタのドラゴン姥桜

シモネッタのドラゴン姥桜

男の子を持つ母にとって、非常に面白い一冊でした。
関東圏の学校には一切疎く、ましてや私立の進学校なんて私の今までの人生で全く関わりが無かったので、この本を読み出した当初「ほほう〜。開成中学・高校ってそんなに校風のいい学校なのかぁ。ウチの息子もそんなところに行かせてあげられたらいいのに。でも中学から私立なんて、学費がなぁ・・・。」なんて軽い気持ちで思ったりしたけれど、ネットで調べてみてビックリ。学費の心配以上に学力的に「ちょっとやそっとで行けるかぁ!」という超進学校だったのですね。。。この本に描かれている「お受験」は面白いことはあっても悲惨さがないので、簡単に行けるところかと勘違いしてしまいました。(笑)
こんなに頭が良くてジョークも上手いユニークな母親に育てられると、子供もまた自然とそういう風に育つものなんだなぁ。平凡な母でごめんなぁ。きゃーすけ。でも愛情だけは負けないからね。

この本のおもしろポイントは他人のふんどしを借りてこのへんでも読んでおいてくださいな。「おお!同感同感。」な感想文が書いてありますから。

一番同感かつしみじみかみしめてしまったのは、以下の部分。

独立した子供は、まぶしく、そしてしみじみ寂しい。十八歳で私を広島から東京に送り出し、今も広島で一人住まいをする母の気持ちがやっと実感できたような気がした。息子のモラトリアムも、私の「母」としての時も終わったのだ。長くて短い、そして実に密度の濃い時であった。息子に言えるのはただ一言。「楽しいドラマを見せてもらいました」。
彼のおかげで、人生を二度生きることができた。しかも二度目は、母にとっては未知の生物「男の子」の人生を、乳児から青年まで間近に体験できたのだ。実に新鮮で愉快な体験だった。

まさしく、妊娠当初は自分が想定できる範囲の「女の子」が欲しいかなぁ・・?と何げに思っていた私に「男の子」が生まれ、女の自分から男の子が生まれるなんて、「未知との遭遇だわっ!」と最初は戸惑っていたのだけど、今では男の子以外は考えられなかったと思うほどに、かわいい。
私の「母」の時はまだしばらく続くけど(現在きゃーちゃんは4歳...)この愛おしい時間はきっとあっという間に終わってしまうのだろうなぁ。。。と、思うと今の時間が更に貴重なものに思えてきます。

シモネッタこと田丸公美子さんの著書ではじめて読んだものでしたが、あんまり面白かったので他のものも読んでみようっと。きゃーちゃんも、いつか読んでみなさいね。

ところで、この本を読み終えて、当然田丸ユウタ君ってどんな子(もう成人しているから「人」か・・・)なんだろうという興味が当然湧いてくるのですが、どうやらその後ポールヘイスティングス法律事務所に就職したのですね。。。
こんなところにご本人の顔写真がありました。確かに、男前です。(^_^)b

武士の家計簿 −「加賀藩御算用者」の幕末維新/磯田 道史

武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)

武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)

その題名から想像していたものをはるかに超える面白さでした!
最近読んだ「国家の品格」で紹介されていたので、流れで何気なく読んでみたところ、神田の古本屋で見つかった古文書を買い求めに行くワクワクする冒頭からぐいぐいと引き込まれる。江戸から明治初期の武士階級の家計状態を経済学的に解析している本かと思いきや、百数十年も昔の加賀の猪山家の皆さんの生活や息づかいがすぐそこに感じられるほどに、どのように暮らし、どのように考え、どのような人物だったのかが生き生きと描かれていました。
借金の返済に苦しんだり、コツコツ働いているのが評価され昇進したり、単身赴任があったり、教育にかけるお金は聖域だったり、お受験があったり。今も昔も同じなんだなぁ、と、しみじみしてしまうのです。
幕府が崩壊して明治の時代が来るという、激変の社会情勢にあって一番役に立ったのは結局自分の能力であったという結果は、ものすごく大事なメッセージですね。これは、「人間の財産は頭と心の中にあるものだけ」と言い聞かされて育てられたという、ピーター・フランクルさんの著書の時に書いた感想と根っこは同じだなぁ、と思います。きゃーちゃん、母はこのことをしっかり君に伝えたいと思うぞ。
この本の後半で、直之じいちゃんが孫の綱太郎への教育が「我等の奉公」と心得て東京単身赴任中のパパ成之に代わり「教育じいじ」よろしく面倒を見ている様子が微笑ましいやら、怖いやら。小学校に上がった綱太郎へ家族中が学校の様子を尋ね、「綱太郎どん」と呼ばれると「ハイ、ハイ」と返事をするのがあまりに可愛くて直之を一笑させたというエピソードの一方、直之が成之に宛てた手紙の現代語訳で

(孫二人は)知恵がつく最中で、善くないことがあれば、めきめき叱るのは私の役目と心得ています。あなた(成之)が幼少の頃、算盤で頭を殴ったところ、算盤は破損し、(算盤の)ツブは流しの前に飛び散る位のことがありました。「それすら、只今、八等官なり。東京の父上様は綱太郎を一等官にも致すべき了簡であると思って、こうしてイジメているのだ」と叱ると、(綱太郎は)恐縮の体です

「おまえを海軍一等官にするために勉強でイジメているのだ。だから算盤で頭をぶつ」という教育を、満五歳から受けて育った人間は、どのような思想を内面化するのであろうか。この先が恐ろしい気がする。しかし、幼少時から算盤で頭をぶちのめして会計技術を叩き込み、今の猪山家があるのは事実であった。

という部分なんか、「うーーーん。恐ろしい。」の一言。子育て中の母の心境としては、子供の教育に対してどれくらいの強度と熱心さで関わるのがBESTなのかというのは、永遠のテーマでもあります。
その後の猪山家はどうなったのだろうか、現在の末裔は?と他人事ではないように気になります。
で、何かとネットを検索してみると、何とこの本、映画化されるんですね〜。たいむりー。楽しみです。

国家の品格/藤原 正彦

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2006年のベストセラーだったそうですが、今頃読みました。(2006年て、子育てに追われていて読書なんか全くしていなかったなぁ・・・)
基本的な路線というか指向が、先日読んだ「驕れる白人と闘うための日本近代史」と同じテーマのように感じます。これらの本はセットで読むといいと思うよ、きゃーちゃん。
かなり極端な物言いをしている部分もあるので、人によってはカチンとくるかもしれないなぁ・・・とも感じましたが(実際この本に反論したり対抗したりしている題名の本がいくつか出ているようですし。読んでないけど。)、「自分の考えは絶対に正しくて他の人が間違っていると思うけど、一番身近にいる女房は半分は誤りと勘違い、残りの半分は誇張と大風呂敷って言っているよ」的な記述もあり、極論しながらも陰でペロッと舌を出していそうなお茶目さと余裕もこの著者に感じてしまいます。(笑)

日本人が英語下手なのは・・・中略・・・母国語だけで済むというのは植民地にならなかったことの証で、むしろ名誉なことです。TOEFLのテストで日本がアジアでビリ、というのは先人の努力に感謝すべき、誇ることなのです。

特にこのくだりが笑えました。英語ができないことに劣等感を抱いている日本人が多い中(私もそう)、こう言って切り捨ててしまえる思い切りのよさが気持ちよいくらいです。そういう著者は外国語オタクで英語もペラペラのようですが。日本が植民地支配を受けたことがないのが奇跡に思えるという部分で先の「驕れる白人と〜」で言っていたことと同じだなぁ、と。

しかし、結論の要点が「これからの日本を救うのは武士道精神であり、論理よりも精神性を重視した方向性である」という点であることについては・・・・うーーーーん、武士道精神って・・・(^_^;アセ な感じです。武士道精神の何たるかを全く知らないので、何ともなぁ、といったところでしょうか。精神性を重視しすぎた結果、「失敗の本質」の内容にもつながるわけで。
そのうち新渡戸稲造さんを読んでみますか。。。

必笑小咄のテクニック/米原万里

必笑小咄のテクニック (集英社新書)

必笑小咄のテクニック (集英社新書)

ウェブをウロウロしているときにたまたま目にした書評から興味を持って読んでみた一冊。
私自身は頭はカタい方でウィットに富んだ小咄で人を笑わせるような才能は全くなく、そういう才能を持っている人は羨ましいと常々思っていた。外国人ってそういう才能を持っている人が日本人よりは多い気がするし、そういう才能に対する価値も高く評価しているように感じる。ダンナはベタなダジャレが大好きで、つきあい始めの当初はどのように反応するべきか悩んだりしたものだ・・・・。これもそう言った才能の一種だったのね。。。。
一冊全て読んでみて、全く面白さがわからない小咄や、妙にジワジワとウケる小咄など色々あったわけだけど、自分は意外にも下ネタが好きなんだなぁ・・・・と実感。
特にお気に入りは「男はあわてることなくスカートを引き下ろした・・・」のヤツや、ドラキュラが3回生き返るヤツ(←これは特に大ウケ)、脳みそはみ出したら食欲が台無しなヤツ、シンデレラが12時になったらカボチャに戻るヤツ等々。大爆笑とはいかないけれど、電車で読みながら「フフフフフ・・・・(怪しいやつ)」とジワジワ面白かった。著者と田丸公美子さんの対談ネタも絶妙に面白い。
自分でとっさに面白い返答をすることや、面白い小咄を自作することはほぼ不可能と思われるけど、ここで仕入れたおもしろ話をどこかで披露できるチャンスがいつか来ることを願うばかりです。

戦後50年決定的瞬間の真実/グイド・クノップ 著 , 畔上司 訳


映画「父親たちの星条旗」を見た影響で「硫黄島星条旗」の写真に興味をもっていたところ、たまたま図書館でこの本を見つけたので読んでみた。
超有名になった報道写真を何枚かピックアップして、それぞれの写真が撮られた時の状況とか、その写真の裏側にある真実などを取材した内容。
硫黄島星条旗」の項では映画どおりの内容が紹介されており、「おお。映画の内容はノンフィクションだったのね。やっぱり。」という感想でしたが、その他の写真も色々と知らなかったこと、興味深いことがたくさんでした。いやーホント、私って何も知らなかったのねというのを改めて実感させられました。
キューバ危機が第三次世界大戦(しかも核戦争)が起こってもおかしくないほどの危機だったなんて知らなかったぁ・・・とか、ドイツ軍撤退後のフランスでそんなに大規模な粛清があったんだぁ・・・とか。シャルトルの報復の日、ロバート・キャパの写真展には以前友人に誘われて行ったことはあったけど、この写真、見た覚えは無いです。
マリリン・モンローが新婚旅行の時点ですでに離婚の元となる決定的なことがあったとか、ナパーム弾の残酷さとか。
色々と毛色が違う盛りだくさんなアレやコレが詰まった、なかなかに良い本でした。